Vol.8 新たなチャレンジのためのセルフエフィカシーと習慣化スキル(前半)

ステージ診断を受けていただいた皆さんは、ご自身がどういった心理ステージにいらっしゃるかを把握できたかと思います。今回は新しいことにチャレンジするときに背中を押してくれる心理学的知見をご紹介いたします。

MSの治療を生活の中に位置づけることができ安定してくると、仕事でのキャリアアップやプライベートでの新しい生活など、次のステップを考え始める方もいるかもしれません。しかし、行動したいのに自信を持てず、最初の一歩を踏み出せないということもあるでしょう。この一歩を踏み出すときに必要なものがセルフエフィカシー、すなわち「自分ならできる」という自信です。

自信を高めたり、行動を習慣化するために、心理学の知見・技法が役に立ちます。今回ご紹介するのは、以下の4つです。

  • 仲間ができるのなら自分もできる「自助グループへの参加」
  • そのしり込みは本当に正しいの?「メタ認知」
  • 成功の積み重ねが今の自信を作る「成功体験」
  • 行動を習慣化させる「セルフモニタリング」

自助グループへの参加

自助グループ(あるいは患者会)とは、同じ病気や障害、困難を抱える人やその家族の集いのことです。会によって活動内容は異なりますが、予め設けられているテーマについて話をしたり、それぞれが自分の体験談を話すといったような交流の場です。学生時代に、親ではなく友達になら授業や先生の愚痴を話せるという経験をしたことがある人は多いと思います。自分と同じ経験をした人たちは、同じ目線で話し合えるとても貴重な存在なのです。

臨床心理士で自助グループについて研究している黄氏・兒玉氏の研究によると、自助グループには以下の4つの働きあります。

1健康な自分として交流する場:趣味や関心事についてなど、人との交流を楽しむ

2援助が得られる場:いろいろ役に立つアドバイスが得られる

3病について学ぶ場:病気やその治療法、関連する医療・福祉制度などについて学ぶ

4友情を深める場:大事な友だちと定期的に会う

もしかしたら、自助グループには自分がしたいことをすでに実行している人や自分と同じ悩みをすでに克服した人がいるかもしれません。そういった他の患者さんからはきっと良いアドバイスがもらえるでしょうし、また、同じMSの患者さんが何かにチャレンジしている姿を見ることで、自分もやってみようという気持ちが高まり、実際に自分がチャレンジする姿もイメージしやすくなると思います。

メタ認知の利用

何か新しいことを始めようとしても、「でも…」「だって…」としり込みすることがあります。こういう場合、自分にとってメリットとなる考え方に焦点を当て、行動を起こさない理由を打ち消していくことで納得して一歩を踏み出せることがあります。

「でも…」という考えそのものを「認知」、そうした思考を評価して、より上位からそのメリットなどを考えることを「メタ認知」と呼びます。ソクラテスの「無知の知」は、「自分は知らないということを知る」ということですが、これはまさにメタ認知です。メタ認知をうまく使えば、現状の自分の認知を観察してより良いものに変えることができるのです。

たとえば、職場の気になる異性に告白できない状況を考えてみましょう。一歩踏み出せないのは、「告白しなければ、失恋して傷付かずにすむ」というような現状を肯定するような認知が邪魔をしているからです。この認知を観察して反証していきましょう。ここで有効な認知には、「告白していないから振られたわけではないけれど、このままでいても何も状況は変わらないかも」や「告白しなければ、相手は自分の気持ちに気づけない。もしかしたら相手も好意を持ってくれているかもしれないのに」などが考えられます。このように、自分の認知を、現状を変えたくなるようなものに変えれば、一歩が踏み出しやすくなるはずです。

変えたいけど変えられない行動の背後には、その行動を肯定するような認知があるものです。今回紹介したものは、そうした認知をとらえて反証することで、自分の行動を変えていくというテクニックです。ぜひチャレンジしてみてください。

(後半に続く)

公認心理師 橋本 空

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