Vol.10 家族とのより良い関係を再構築する(前半)

ステージ診断を受けていただいた皆さんは、ご自身がどの心理ステージにいらっしゃるかを把握できたかと思います。今回は心理ステージに関わらず全ての皆さんに向けて、家族とより良い関係を再構築するための知識をご紹介いたします。

MSと診断された後、家族との付き合い方に、特に母親との関係に悩む方がいらっしゃるようです。なぜ家族の方は時として、患者さんにとって望ましくない関わり方をしてしまうのか、その心理を理解することは大切なことです。今回ご紹介する心理学の知識は以下の3つです。

  • 親が過干渉してくるのは?「バウンダリー・オーバー」
  • コミュニケーションが上手くいかないのはなぜ?「交差的交流」
  • サポートの落とし穴「ソーシャル・サポートのネガティブな効果」

バウンダリー・オーバー

MSを発症しやすい年齢は30歳前後と言われており、患者さんの中には、親から経済的にあるいは住居的に独立している方もいらっしゃると思います。しかし、そんな患者さんに対して親、特に母親がまるで子ども扱いするかのように過干渉になってしまう場合があるようです。これは、母親である自分と自分の子供である患者さんとの心理的な境界線(バウンダリー)が重なってしまったため生じる現象と言えます。

誰だって赤ちゃんの頃は一人では生きていけません。親、特に母親は赤ちゃんに何でもしてあげると思います。これは、赤ちゃんが母親の存在の一部として重なっている状態だからです。こうすることで、赤ちゃんに安全を提供しているのです。その後、赤ちゃんは幼児から学校に通うような子どもへと成長していくにつれて、子どもだけでできることが増えていきます。そうすると、子どもは親がいなくてもこの世界でやっていけることを確認でき、少しずつ子どもは親から離れていきます。その結果、親という存在と子どもという存在が別個のものとなり、境界線が完全に離れるのです。

患者さんの母親の中には、病気のことを心配するあまり、一度個別の人間となったはずの自分の子どもに過度に関わろうとしてしまい、両者の関係がぎくしゃくしてしまうことがあります。これは病気をきっかけとして、幼い頃のように親の存在と子どもの存在が境界線を越えて重なった状態になっているためと考えられます(バウンダリー・オーバー)。母親は子どもに安全を提供しようとするあまり、色々と手助けをしますが、患者さんはもう幼い子どもではありません。子ども時代のような手助けは必要ないのです。そのため、患者さんからすると母親の干渉を過剰に感じてしまうのです。

バウンダリー・オーバーとなっている場合、一方的なサポートは必要ないことを親側が認識することが大切です。そのために患者さんは親に対して、どこまで自分でできるか、どんなサポートをしてほしいのかを明確に伝えるとよいでしょう。バウンダリー・オーバーの根本には、自分の子どもの病気に対する親の強い不安がありますが、両者のコミュニケーションを深めることでこうした不安も解消していくことができるでしょう。

(後半に続く)

公認心理師 橋本 空

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