ステージ診断を受けていただいた皆さんは、ご自身がどういった心理ステージにいらっしゃるかを把握できたかと思います。今回は日々の生活の中で直面する緊張や落ち込みなどを和らげるための技法をご紹介いたします。
それぞれのステージによってMSという病気の受け止め方は異なりますが、その時々で気分の浮き沈みはあるものです。例えば、初期の「病気の認知」のステージの方はしっかりと疾患を理解できていないことから不安になることがあるでしょう。一方で、病気との安定的な付き合いが継続できている「病気との共生」のステージの方であっても、日々の生活の中でのちょっとしたイライラや落ち込みは避けられないものかと思います。
そういった落ち込みや不安、あるいはイライラなどの感情を和らげるのに役立ってくれるのが心理学的技法です。今回のご紹介するのは以下の3つの方法です。
緊張していると体に力が入って肩こりがひどくなるように、心と体には深いつながりがあります。心が体に影響を与えるように、体も心に影響を与えます。それを利用して、体の筋肉を緩めることで心をリラックスさせることができるのです。
いきなり体の筋肉を緩めるのは難しいのですが、一度筋肉に力を入れてから力を抜くと筋肉を緩めやすくなります。これが漸進的筋弛緩法というリラックス方法です。
漸進的筋弛緩法では体の筋肉に力を入れて力を抜いた後の脱力感に意識を向けます。そのため、椅子に座るなどリラックスできる姿勢でおこなっていきましょう。コンタクトレンズやベルト、時計などの体を締め付けるものは外してください。
漸進的筋弛緩法は以下の手順でおこないます。
まっすぐに伸ばした利き手をグーの形にして力を込めます。力を込めたら、一気にダラーンと力を抜きましょう。腕をダラーンとしたままで、こぶしだけではなく前腕や上腕の脱力感も意識してください。
再び利き手をグーの形にして、上腕部に近づけ肘を曲げた状態にします。そこでこぶしと腕全体に力を込めた後、一気にダラーンと力を抜きます。
その後、利き手とは反対の手で、同じ動作をおこないましょう。
顔の真ん中に集めるような感覚で、両目をしっかりつぶる、口をおちょぼ口にさせる、肩を持ち上げるといったことをおこなっていきます。その後、顔や肩に込めた力を一気にすべて抜きます。
息を吸った状態で呼吸を止めてそのときの胸の緊張感、そして息を吐いて力が抜けたときの脱力感を意識していきましょう。他にも、背中を曲げて胸の表面積を狭くするように前かがみになったり、逆に胸を張って肩甲骨を背中で寄せるようにしたりすると胸に力を入れることができます。その後、胸や背中、腹部から力を抜いていきましょう。
つま先だけを床につけたり、かかとだけを床につけたりして、足全体を伸び縮みさせていきましょう。お尻に力を入れるのもよいです。力を入れたら一気に力を抜いていきます。
ちなみに、漸進的筋弛緩法では脱力感を得ることが目的なので、力を入れるときは60~70%くらいで十分です。力を入れるのは5秒くらい、力を抜くのは15秒くらいでスイッチを切り替えるような感覚でおこなっていきましょう。
MSの症状によっては力を込めることができない部分もあると思いますが、全部できなくても問題はありません。できる部分だけでいいので、丁寧に意識しながらすることが大切です。
(後半に続く)
公認心理師 橋本 空