Vol.4 ネガティブ感情のコントロール(後半)

家族やパートナーとの自己開示

自己開示とは、自分の考えや思いを相手に話すことです。ただ、ここでお話しする自己開示は、単に自分がMSを患ったという表面的なものにとどまりません。MSを患いどれほどつらい思いをしているか、将来どうなるのか分からなくて怖いという内面的なものをありのままに話すことが大切です。

ネガティブ感情のコントロールでは、自己開示の以下の2つの効果が重要になってきます。

1感情を出す:

嫌な出来事があったときに友人に愚痴を言ったらスッキリしたということは、多くの人が経験することです。このような感情を出してすっきりするというのはカタルシス効果と呼ばれ、多くの心理療法でもおこなわれていることです。

2自分の考えていることや思っていることを明確にする:

強いネガティブ感情を抱えている場合、色々なことが頭に浮かぶと思います。例えば、MSの診断を受けたときには、「自分はこれからどうなるのか」、「家族の生活はどうなるか」、あるいは別のことが頭に浮かぶかもしれません。しかし、どの考えが自分にとって最も重要なものなのか、はっきりしないこともあるでしょう。そうしたときには、信頼できる人に考えを打ち明ける中で、頭の中の整理が進み、自分が何を一番つらいと思っているのかを理解することができるようになります。その結果、それまで自分を圧倒してくるような大きなストレスだと思っていた問題を、落ち着いて受け止め、対処することができるようになるのです。

とはいえ、不安な気持ちやつらい気持ちを一方的に相手にはき出せばよいというものではありません。感情を出したことでスッキリする一方で、病気に関する深刻な話が相手に負担になっていないか不安を感じるものです。また、相手がどう考えているのかといった反応も気にかかることだと思います。実際に、女性がん患者さんを対象にした研究によると、患者さんである妻から夫への自己開示だけではなく、夫から妻への自己開示も妻の気分改善に有効だと報告されています。家族やパートナーとしっかり話合い、支え合うことで少しずつ不安や落ち込んだ気持ちを立て直していけるのです。

情報収集

病気にまつわるネガティブ感情は、先行きの見えなさから起きることがあります。そのため、病気について情報を集めることで不安が和らぐ場合もあります。

他の病気の情報や健康情報と同じように、MSの情報は医療従事者だけではなく、本やインターネットからも手に入れることができます。しかし、特にインターネットの情報の場合、その情報が正しいものかを見極めなければなりません。情報を見極めるポイントは以下の3つです。

1いつの情報か:

昔は正しいと信じられていた治療法であっても、現在ではあまり効果がないものだと分かったという話はよくあることです。そのため、情報が新しいものかを確認する必要があります。

2情報の発信者は誰か:

例えば、「ダイエットに効果があるストレッチ方法」という情報があったとします。この情報の出どころが知り合いの知り合いなどのように情報に明るいか分からない人の場合、情報の信ぴょう性は低いです。情報の発信者がMSに詳しくない人や非専門家の場合は、その情報は慎重に受け取る必要があります。

3根拠は何か:

先の例の「ダイエットに効果があるストレッチ方法」も、もし専門の医師が研究結果に基づいて発信したものであれば、信用できるものと言えるでしょう。なぜなら、その情報が医学的な研究知見に基づいた実証的なものだと言えるからです。しかし、誰かの主観的な経験が根拠だとしたら、それはあくまでも個人の感想にすぎません。このように、その情報の根拠が客観的で信頼できるものなのかを慎重に判断することが大切です。

いかがでしたでしょうか。ネガティブ感情をコントロールする方法には筆記表現法や音楽療法、家族やパートナーとの自己開示、情報収集など、色々な方法があります。どの方法が一番しっくりくるかは、性格や状況によって違います。自分にあった方法を実践して、日々を快適に過ごしましょう。

公認心理師 橋本 空

参考資料

安藤清志 (1986).  対人関係における自己開示の機能 東京女子大学紀要論集, 36, 167-199.

羽鳥健司・石村郁夫 (2016). 筆記と語りに関するポジティブ心理学的研究の概観 東京成徳大学臨床心理学研究, 16, 205-212.

笠井史人・小島寿子 (2013). 基礎から学ぶリハビリテーションと音楽療法-チーム医療に必要な知識と音楽アプローチ― 音楽之友社

国立研究開発法人国立がん研究センターがん対策情報センター (2017).  情報を探すときのポイントとは 
Retrived from https://ganjoho.jp/public/support/moshimogan/moshimogan03.html(2020/08/05)

高橋恵子・岩渕将士 (2014). 女性がん患者とその配偶者におけるコミュニケーションと精神的健康との関連 東北大学大学院教育学研究科研究年報, 63, 141‑157.

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