Vol.5 周囲の人や医療従事者とのコミュニケーションのための
考え方のコントロール(前半)

ステージ診断を受けていただいた皆さんは、ご自身がどの心理ステージにいらっしゃるかを把握できたかと思います。今回は日々のコミュニケーションのなかで生じる自己否定的な考え方や落ち込みを和らげるための技法をご紹介いたします。

治療が落ち着いて家庭や職場に戻ってきたら、これまでとは同じようにはできないことが目に付くことがあるかもしれません。また、治療を受けているなかで思ったように効果が出てこないと感じることもあるでしょう。そして、「どうして上手くいかないんだろう…」「病気の影響でうまくできないのかな…」などと落ち込んでしまったり、自分を否定してしまうことがあると思います。

そういった自己否定的な考え方や落ち込みを和らげるのに役立ってくれるのが心理学的技法です。今回ご紹介するのは以下の3つの方法です。

  • 落ち込みに至った考え方が正しいものだったかを書き出して整理する認知再構成法
  • 自分と「自分が演じる他人」との間で手紙をやり取りすることで、他の考え方に気づくロールレタリング
  • 自分を温かく支えてくれる周りの人の存在に気づく内観療法的思考

認知再構成法

落ち込む出来事もありますが、出来事に対して自動的に頭の中に浮かんでくる考え(自動思考)が落ち込みを助長していることがあります。そうした落ち込みを強める考え方は多くの場合、主観的で偏りがある内容であることが多いのですが、それをより客観的で合理的なものに変えれば、同じ出来事であってもそこから生じる感情が変わってきます。

例えば、会社の会議に遅刻してしまった状況を考えてみましょう。

状況 会社の会議に遅刻してしまった
自動思考 せっかく自分がメンバーとして選ばれ、しっかりがんばろうと思っていた矢先に遅刻をしてしまうとは、全く何をやっているんだ、私は。やっぱり病気をかかえながら、仕事で成果を出すことって難しいのかな。他のメンバーも視線が厳しかったし、あきれているに違いない。
その時の気分 落ち込み度90点
推論の誤り 過大視(できていないことを大きく見ている)
適応的思考 よくよく考えてみると、私以外の人もときには遅刻することがあるし、それを病気のせいにしたり、仕事の成果が出せないと考えるのは、考えすぎだった。その後も他のメンバーとのコミュニケーションは良好だし、あまり気にすることはないな。
今の気分 遅刻はしないように気を付けよう。仕事の中身で評価を上げられるようにがんばろう。(落ち込み度20点)

上記の例の途中で出てきた「推論の誤り」とは、自動思考がどんなふうに歪んでいるものかというものです。代表例には以下があります。

①全か無か思考 100%できなければ、失敗したも同然と考えてしまう
(例)MSになったから、やりたかったことは全部できない
②一般化のしすぎ ひとつの出来事を他の全ての出来事にあてはめてしまう
(例)自分の人生はいつも上手くいかない
③論理の飛躍 根拠もなく、「きっと~に違いない」と思う
(例)好きな異性がいるが、私はMSだから交際できない
④過大視/過小評価 悪い点は大きく評価し、良い点は小さく評価してしまう
(例)今のところ生活に支障はないが、何とかできているのは運が良かっただけだ
⑤すべき思考 「~すべき」というルール
(例)料理は手作りでなければいけない。お惣菜なんてダメだ

例えば、健康のために毎週休日の朝にジョギングをしようと決め3週間ほど経過したころに、朝寝坊をして実行できなかったとします。そんなときに、「自分で決めたことを1か月も継続できないなんて、今後も健康のための取り組みは何もできないに違いない」など考えてしまうのは、たった1回の失敗を「健康への取り組み全般」ができないことに「一般化」しており、「一般化のしすぎ」をしていると言えるでしょう。

なお、認知再構成法を行っても気持ちが晴れないこともあると思います。そういったときは、以下の工夫を行うとよいでしょう。

1出来事を具体的に書く

(例)今まで通りできないことだらけだ

→今まで通り仕事ができず、今まで私がやっていた○○の仕事が同僚にいき、負担をかけてしまった

2根拠や反論は具体的な事実を元に書く

(例)それでも何とか会社は回っている

→MSでできないこともあるけど、自分でできる範囲の仕事はしている

(後半に続く)

公認心理師 橋本 空

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